軽便鉄模アンテナ雑記帳

軽便鉄模アンテナ管理人(うかい)の雑記帳です。ナローゲージ鉄道模型の話題が主

ナンタラnナンタラ(4)・「HOn2-1/2」が生まれた日 の巻

★そもそも何でこの話題になったのか、自分でも良く分からなくなってきた今日この頃。記事を読み返してみるとSn2に10.5mmと9mmがある事が発端でしたね。

アメリカにおけるHOn2-1/2 創世記

★Juniorさんが御自身のブログでHOn2-1/2 創世記について早速話題にされておられます。記事内容もさる事ながら、コメント欄に寄せられた情報も必読!

1961年に発表されたHOn2レイアウト(どうやら7mmゲージだった模様)であるとか、日本におけるOナロー(On2-1/2)のパイオニア・角倉彬夫氏が文通していたというアメリカのナローゲージャー、ヒュー・バウテル氏のエピソードも興味深いです。

NMRAスタンダード

以前の記事に頂いたコメントで、廣瀬さんやTad御大が書かれておられますが、米国NMRAの規格表はナローゲージャーとしてどうもイマイチ納得がいかない部分があります。あるべきもの…つまり或る程度のファンが存在し、製品も出ているものが載っていなくて、「こんなの誰がやっているんだよ〜」*1って物が載っている。ぶっちゃけ「何だナローか*2って事なのかも知れません。いずれにしてもNMRAスタンダードに載っている・いないで判断するのは早計でしょう。
どうも日本の模型界ではNMRAスタンダードを国際規格と勘違いしている向きもあるようですが、そもそもアメリカの模型ファンがアメリカの鉄道を模型化するために決めた標準*3なのであって、あくまで参考として参照しているのです。そこんとこヨロシク…って事で。

HOn2-1/2の名付け親

★さて「HOn2-1/2」の名付け親ですが、名付け親は特にいないというのが正しいところかと思います。エガーバーンが1/87・9mmを出す以前、既にアメリカではOn3、HOn3というゲージと呼び方が存在し、またOn2-1/2という呼び方も存在していました。そして日本でもOナローのパイオニア・角倉彬夫氏(イプシロン鉄道)の作品はOn2-1/2ゲージとして鉄道模型趣味(TMS)誌で紹介されており、HOn3という呼び方も使われていました*4。HOの縮尺である1/87で、2フィート6インチ=762mmゲージのナローを模型化すれば、それはHOn2-1/2になるのです。ただし、1965年より前に日本においてHOn2-1/2ゲージは存在は確認されておらず、1/76〜1/80・10.5mmや1/80・9.5mm(和久田氏のフルスクラッチによるコッペル。通称「和久田コッペル」)がファンの作品として(ごく僅かに)存在したのでありました。
鉄道模型趣味(TMS)誌1965年2月号(200号)では、2つの9ミリゲージ製品が誌面に登場しています。関水金属の1ページ広告に「機関車はC50 客車はオハ31系 まず、この列車をレイアウトに…」とのコピーで9mmゲージ(=Nゲージ*5のC50とオハ31系客車の試作品の写真が掲載。そしてある本文記事の中で、西ドイツのエガーバーン*6のHOナローL型ディーゼル(1号機)が「HOn2-1/2に相当する」として紹介されています。
エガーバーンが紹介されていたのは、編集部の赤井哲朗氏による「ナローゲージ散策」というナローゲージモデルの解説記事です。この記事の中では以下のように記されています。

それではナローゲージのHOはといえば、実物が3呎のナローなら10.5mm(HOn3)、2呎なら7mm(HOn2)、そして2呎6吋なら8.75≒約9mmとなって、これはHOn21/2と呼んでしかるべきものとなる。
(中略)
特に日本では、2呎6吋(762mm)軌間のプロトタイプになじみが深いから、On21/2とHOn21/2の存在価値は大きいと思う。

HOn2-1/2と「呼んでしかるべきもの」と書かれていますが、この時点ではHOn2-1/2が9mmという模型界での共通認識は存在していなかったのです。またエガーバーンにしても登場当初は「HOn2-1/2」とか「HOe」といったゲージ名は特に名乗っていませんでした。そして、エガー以外にHOで9mmゲージのナローというのもまだ存在していなかったのです。

昨年、山崎主筆と西ドイツの鉄道模型誌Miniatur-bahnenを見ていて、9mmゲージをNと呼んでいるのを発見した時、ナローファンとしての筆者は腹の中で思わずニヤリとほくそえんだものである。ミキストにもあるとおり、Nは9mmの9を表わしているのだが、ナローファンにとって、それはnineでもneufでもneunでもnoveでもなく、narrowに通じてしまう。3.5mm×2.5mm=8.75mm≒9mmという計算から、HOn21/2ゲージにこのパーツが利用できるわけである。これをそのまま具体化したEgger製品の軽便鉄道の一式が、堂々と日本のデパートの店頭に並んだし、先号の広告で御承知の通り、日本製のすぐれた9mmモデルが市場に姿を現わすのも間近い。かくて、2呎6吋のプロトタイプをHOで模型化する絶好のチャンスが到来したのである。

赤井氏が書かれているように、エガーバーンの登場とNゲージの登場で、HOで2フィート6インチ=762ミリゲージの軽便を模型化する1/87・9mmの可能性が生まれ、それに対してアメリカで使われているナローゲージ呼称法を当てはめたら、「HOn2-1/2」に相当するという事になった訳でしょう。
★TMS誌1965年11月号(No.209)のミキスト欄では、山崎喜陽主筆が9mmゲージ(=Nゲージ)とHOn2-1/2の違いについて説明しています。

★わかっているようで意外に理解していない人が多いのが、9mmゲージとHOn21/2のちがいである。どちらも「線路の巾が9mm」だから混乱してしまうらしい。
★一言でいうなら「この二つは一緒のレイアウトにはならない」のである。大きさからいうなら0番と16番のような全くちがったものである。9mm(またはN)ゲージといわれる模型は実物の1/160(日本型は1/150)で作る。HOn21/2(市販品では西ドイツのエッガー・バーン)は1/87で作る。9mmの方は標準軌間1435mmの1/160であり、HOn21/2の方は2フィート半すなわち762mmの1/87であり、いずれも9mmが線路の巾である。

NゲージとHOn2-1/2の違いについて説明した後は、モンカルラインの後藤氏がエガーバーン製品を使って作った小さなテストレイアウト(エンドレス一つの簡単なもので、ストラクチャーはドイツ製プラキット使用)を紹介しています。
★この翌年、TMS1966年11月号(No.211)より、「ナローの魅力 HOn2 1/2の軽便鉄道」として、橋本真氏による伝説のHOナロー9ミリレイアウト・祖師谷軽便鉄道の発表記事が連載されるのです(この連載は後に「レイアウト・モデリング」に再録されたので、そちらでご覧になった方の方が多いでしょう)。連載の第1回目では「ゲージとサイズ」としてほぼ2ページを費やして、ナローゲージを模型化するにあたってどのようなゲージとサイズを用いるかについての考察がされています。日本でナローを模型化する場合、1/80にするか1/87にするかという悩みは、この時すでに始まっていたのであります。

エガーバーンは「HO名無し」だった?!

★前述のように、HOナロー9mmの嚆矢・西ドイツのエガーバーン製品は、米式に言えばHOn2-1/2(HOn30)、欧式に言えばHOe、英式に言えばHO-9な訳ですが、登場当初の頃の品のパッケージやカタログをみると、どこにもそんな表記はなく、「HO」と書いてあるのみです(2012/06/03追記:後期の製品パッケージには「HO-9mm-HOn2-1/2」の記述があるのを確認しました)。大袈裟にいえば、登場当時のエガーバーンは「HO名無し」、もしくはサイズこそHOだけれども、HOゲージでもNゲージでもないエガーバーン」という独自の鉄道模型システムだったのではないでしょうか。エガーバーン発売時点ではHOナロー9mm製品なんて世界中のどこにも存在せず、アマチュアの自作品としても恐らく存在しなかったのです。
エガーバーンに続いてフランスのジューフ、アメリカのミニトレインズ、オーストリアのリリプットとHOナロー9mm製品が発売され、イギリスではPECOのOO-9線路が、そして我が日本では87分署/珊瑚、乗工社が製品を発売し、HO(もしくはOO)の9mmゲージのナローは一つのジャンル・ゲージとして確立した訳です。今では「HOn2-1/2」「HOn30」、「HOe」と呼ばれていますが、いつ頃からそうなったのでしょうか?
創世記の9ミリナロー製品のパッケージや広告をネット上で一通りチェックしてみたところ、エガーバーンは後期の製品には「HOn2-1/2」の記述が見られますが、エガーに追随したフランスのジューフも当初はHOn2-1/2やHOeという表記は使っておらず、初期は「HO」と併記して「VE」(フランス語で狭軌を意味するVoies Étroitesの略)、後に「HO métrique(9mm)」と表記(1980年代にエガーバーンブランドで久々に再生産した時のセットから「HOe」と明記されているようです)、オーストリアのリリプット製品は車輌パッケージに「HOe」、線路のパッケージ*7に「HOe」「HOn2-1/2」と記載。ミニトレインズの流れをくむオーストリアのロコ・インターナショナル(現ロコ)の9ミリナロー製品ではパッケージに「HOe」と大きく入っています。
ナンタラnナンタラという呼称の発祥の地であるアメリカにもエガーバーンが輸入され、続けてAHMミニトレインズが登場。Juniorさんよりコメント頂いた通り、当初はゲージ表記は曖昧だったのが*8、やがて「HOn2-1/2」の表記が使われるようになったようです。
★ちなみにHOn2-1/2のマザーゲージたるNゲージの状況について言うと、海外では1960年にイギリスのロンスターが電動OOOゲージ(1/152・9mm)製品を、西ドイツのアーノルトがラピード200として1/200・9mmゲージ製品を発売(アーノルトラピードは1962年に縮尺を1/160に変更)。1964年には西ドイツのトリックス(ミニトリックス)、東ドイツのピコ(PIKO)が相次いで9mmゲージに参入。この頃には「Nゲージ」という呼称が生まれていた様です(以上はRMモデルズ誌125号〜136号連載の「紀元前N世紀」*9より)
日本国内では関水金属がTMS誌1965年1月号の広告で9ミリゲージ製品の発売を予告。C50とオハ31、及び線路*10が発売されたのが1965年の10〜11月頃。それ以前にロンスターを参考にしたと思しきトミヤマ(トミー)の「OOOゲージ夢の超特急セット」が1964年には発売されており*11ソニーマイクロトレーンがサンプル製造したED75とスハ43系のセットで市場調査を開始したのが1965年2〜3月頃です。
すなわち、1964年には縮尺1/150〜160・9mm軌間Nゲージが製品としてほぼ確立し、HOナローのマザーゲージとして使える物となっていた…という事でありますが、もしNゲージが9.5mmゲージだったり、エガーバーンが8.75mmゲージだったりしたら、HOn2-1/2はどういう軌間を用いていたのでしょうね??
(しつこくつづく

関連するリンク

*1:例えばアメリカンOO(1/76・19mm)とか

*2:茶店ナローゲージャー同士でナローの模型を前にお茶を飲みつつ模型談義をしていたところ、どうみても模型なんかやりそうにない(ヤの付く職業の方と思しき風体だったとの説あり)男がつかつかとやって来て、机の上を一目みて「何だナローか!」と一言発して立ち去っていったというナロー鉄模界で語り継がれる伝説的な事件。昔のTMSのミキストに出ていた話。

*3:"NMRA Standards"の「スタンダード」を「規格」と訳している例が多いですが、「標準」と訳した方が適切であるような気がします。

*4:1964年に発売されたつぼみ堂の木曽ボールドウィン(16.5mmゲージと10.5mmゲージの2バージョン有)はTMS誌の広告に「HO、HOn3」と明確に書かれています

*5:この時点ではNゲージという名称は国内では使われておらず、「9mmゲージ」と呼ばれていました

*6:Egger-Bahnの日本語表記は今では「エガーバーン」でほぼ統一されていますが、発売された1964〜5年前後では「エッケルバーン」「エッガー・バーン」等の表記がされていました。

*7:リリプットはHOナロー9mm用線路も発売していた事がありました。この線路のカーブ半径や直線の長さが、何とNゲージのアトラスや関水-KATO固定式線路と同一であるのが興味深いところ

*8:最近BCHより発売された復刻版のミニトレインズのパッケージは当時のものをそっくりそのまま再現していますが(トロッコ入りセットの方)、どこを見ても「HOn2-1/2」などという表記はありません。お持ちの方は確かめてみてください。

*9:大田治彦氏による初期のNゲージ製品についての調査研究記事。非常に真面目かつ参考となる記事であり、鉄道模型及びNゲージの歴史を語る上では必読

*10:何度か書いていますが、この時点で発売されたのは、黒枕木のアトラスOEMもしくは互換の「固定式線路」ではなく、茶枕木でコード70レールを使った初期線路です。

*11:TMS誌1964年6月号(No192)の「ミキスト」欄にデパートで売られている旨の記述があり、1964年の春頃に市場に出ていたのは確実。富山商事からトミー商事への名称変更が1963年との事なので、もしかすると1963年の発売なのかもしれません