軽便鉄模アンテナ雑記帳

軽便鉄模アンテナ管理人(うかい)の雑記帳です。ナローゲージ鉄道模型の話題が主

静岡鉄道駿遠線の記録 1968-1970


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★SHIN企画のナロー本第二弾として、長門克巳氏著の「静岡鉄道駿遠線の記録 1968~1970」が年末に発売されました。
★本書は副題の「1968~1970」の通り、駿遠線末期の姿を収めたもの。近代的な湘南型バス窓のキハが主体の時代で、まるで「猫屋線」を見るかの様…いやいや、猫屋線の車輌が駿遠線の車輌をモデルにしているのでありますが。
著者である長門克巳氏は、TMS誌上の実物シーナリィ・ストラクチャー紹介記事でおなじみであり、また日本初の本格的ナロー製品「ダックス」を産み出した「87分署」のメンバーであった方。新井清彦氏の「軽便探訪」にも写真を提供されていますが、今回は長門さんの写真だけで構成されています。
★本書の価値と特色はどこかというと、鉄道模型、それもレイアウトファンの立場から構成されていること。車輌の運用、各駅の表情、沿線の風景、車輌という内容になっています。
★車輌の運用(新藤枝~堀野新田間運転時と、最末期の新藤枝~大井川運転時で、いずれも始発から12時前後まで)は車輌運用表と写真で解説していますが、この辺りは昔のダックスストーリーのダイヤ運転の試みを思い出します。ナロー製品の走りが進歩し、さらにDCCなどのシステムも出現した今日、本書で紹介している運用を模したダイヤ運転を、模型で楽しむ事も十分可能でしょう。
★各駅の表情、沿線の風景については、レイアウトファンの視点で撮影された写真が中心。駿遠線については他にも撮影されている先輩方は多いのですが、どちらかというと車輌が中心。当時のフイルムの値段その他を考えれば当然ではありますが、模型ファンとしては、車輌の写真の端に写りこんでいる背景に「うーん、もっとここが見たい」と思う事もしばしば。本書では駅舎やホーム待合室、大井川橋梁の橋脚など、シーナリィガイド的写真が多数あり、ナローレイアウトを作ろうというファンには参考になるでしょう。
★車輌については既刊の図書に任せて軽くまとめた感じですが、現代のレイアウト志向のナロー鉄模ファンであれば、車輌は「猫屋線」や完成品、せいぜいキット組立で済ませる事が多いでしょうから、シーナリィやストラクチャーの写真の方が参考になるのでは?とも思う次第。駿遠線の車輛について詳しく知りたいのであれば、湯口徹氏のレイル私鉄紀行シリーズ「黒潮と小さな汽車の通い道」上下、新井清彦氏の「軽便探訪*1などを参照されると良いでしょう。
しかし、車輌の写真でもキハD20の運転台の写真などは初見。従来の通説とは異なり、末期にはキハD19・D20が総括制御化されていた事が写真からもわかります。また、保線用の自家製モーターカー(如何にもナローファン好みのスタイル)やその活躍シーンも、今まで写真をあまり見たことがありません。
★本書の写真を眺めていると、半世紀前の夏の日、長門少年がナローレイアウトを夢み、その参考にするべく写真を撮影したであろう事がひしひしと感じられます。もしかすると本書は、半世紀前の昭和のナロー少年から、21世紀の令和のナロー少年へ向けてのタイムカプセルなのかもしれません。

*1:版元品切れの様ですが、本書は元々TMSの連載記事を一冊にまとめたものであり、連載当時のTMSバックナンバーであれば古本屋で格安で買えたりします→2022年5月に新装版として再版されました。