軽便鉄模アンテナ雑記帳

軽便鉄模アンテナ管理人(うかい)の雑記帳です。ナローゲージ鉄道模型の話題が主

情景作家 −昭和のミニチュア展を見た


旧新橋停車場で7月21日まで開催されている「情景作家 −昭和のミニチュア」展を見に行ってきました。坂本衛山田卓司、戸塚恵子、諸星昭弘の四氏の情景作品の展覧会で、鉄模界隈では「あの摂津鉄道が展示される!」という事で、見に行かれた方も多い様です。
坂本衛氏と諸星昭弘氏は鉄道模型山田卓司氏はプラモデル、戸塚恵子氏はドールハウスの世界の方なので、それぞれの文法の違いを感じられて興味深かったです。単に使用しているスケールの違いだけではなく、表現方法そのものの違いであります。
★戸塚氏の作品は室内を作る事に重点がおかれ、また家具その他はあっても人間(人形)は一切ありません。ドールハウスというのは敢えてそうするのがお約束だそうです。丹念に造り込まれた室内は眺めていて飽きる事がありません。一方、山田氏のジオラマはプラモデルの流れを汲んでいるため、大胆にカットされ、クローズアップされたものになっています。素材はプラ板やパテであり、基本的に塗装によって質感その他を表現しています(畳の部分など例外もありますが)。諸星昭弘氏は鉄道模型の世界の人ではありますが、もともとイラストレーター/デザイナーとして活躍されていた方であり、さらに今回展示されているのは個人の作品であるので、一般的な鉄道模型とは表現その他が少々異なります。
坂本衛氏の摂津鉄道は以前にJAMコンベンションでも展示されており、拝見したのは確か今回で3回目。ご存じの方も多い通り、レイアウトに組み込む筈が完成を見なかったため、台枠側面等がむき出しになっているのですが、今回の展示では展示ベースを掘り下げてそこに埋め込む様にされており、さすが博物館のプロは違う…と感心。



↑摂津鉄道のセクション。2000年のJAMコンベンション時に撮影。
★近年坂本衛氏は「プアモデル」としてお金の掛らない模型の楽しみ方を提唱されておられますが、摂津鉄道が「全て自作だから良い」*1という短絡的な見方をするのは違うかと思います。全体の配置や地形、そして自然な彩色*2がこの作品の優れたところであると考えます。
草木の表現はライケンすら存在しなかった時代*3ゆえに現代の目から見ると劣るのですが、そこを更新してしまえば現代の優れたレイアウトと互角に勝負できると思われます。
ちなみに、摂津鉄道の制作技法は旧世代のものである事が忘れられがち。プラスターによるハードシェル/薄めた絵の具による水彩画的彩色ではなく、紙粘土(市販品ではなく、新聞紙とのりを混ぜて作ったのですよ!)にラッカー彩色という技法なのです。現在一般的なプラスターによる地形作りが日本で導入されたのは、荒崎良徳氏の雲竜寺鉄道(1969年)あたりからなのです。
★巨匠モロさんこと諸星昭弘氏の作品はJAMコンベンションや軽便鉄道模型祭でおなじみですが、今回制作された新作である「ノスタルジックボックス(モノクロームな町)」には引き込まれそうになりました。いや、ありがちな比喩ではなく、見ていると箱の中の風景に吸い込まれそうな不思議な感覚を感じたのです。遠近感の効果でしょうか?

これが「ノスタルジックボックス(モノクロームな町)」。ちなみに既に売約済みとの事(2013JAMコンベンションにて撮影)白黒テレビの画面を模したジオラマなのですが、左上に「カラー」という文字があるのに思わずニンマリ。40代半ばより上の方でないと記憶にないと思いますが、昔はカラー放送の番組は「カラー」と画面に出ていたのです。しかしカラーTVは高価で台数も少なく、白黒TVで「カラー」の文字を見る事も多かったのであります。(会社で30代20代の後輩にこの話をしても、誰一人として信じてくれなかった事が…)
★四氏の作品以外に、今回監修をされているさかつうギャラリーの坂本憲二氏による1/45農家が展示されていましたが、一目見て「こんなにでかいのか!」と驚きました。ブログでアップされていたのを拝見していましたが、頭の中で思っていた以上に大きいのです。1/45前後のスケールは鉄道模型ではOナローでお馴染みですし、1/48のミリタリープラモや1/43のミニカーのジオラマも考えられますが、実際に作る際には大胆な圧縮デフォルメやカッティングが必要な事を痛感したのであります。

★今回の展示は残念ながら撮影は不可ですが、オールカラーの目録(900円)が素晴らしいので、忘れずに買う事をオススメしておきます。

*1:現在と異なりレイアウト用品もストラクチャー製品もほぼ皆無だったので、全て自作するしか方法がなかった訳ですが。

*2:制作以来50年近く経過した事により、人為的には造りだせない風合いが加わった事も考えられますが、制作当時にTMS誌に掲載されたカラーグラフを見ても、制作当時から落ち着いた色調である事が伺えます。

*3:キャンベルやPECOのライケンが日本に輸入される様になったのは1970年代に入ってから。